GO VOTE JAPANはなぜ始まったのか。発起人ふたりの等身大の言葉たち 【辻愛沙子 × 田代伶奈 対談】 #わたしが選挙にいく理由

2021年10月31日に迫る第49回衆議院議員総選挙。前回の衆院選の投票率は全体で53.7%、20代では33.9%という、世界的に見ても低い水準の数字だった。そんな日本の選挙のあり様を変えるために、有志のメンバーによって一般社団法人Go Vote Japanが設立された。当団体は、特定の政党や主義主張にかかわらず、広く投票行動を呼びかけ、投票率を1%でも上げることを目標に掲げている。今回は、その発起人であるクリエイティブディレクターの辻愛沙子と哲学対話の活動を続けてきた田代伶奈に、団体を立ち上げた経緯や、そこに込めた思いを聞いた。



プロフィール
辻愛沙子(写真右)
社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の2つを軸に広告から商品プロデュースなどを手掛ける越境クリエイター。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「レディーノーズ」プロジェクトを発足。2019年秋より報道番組「News Zero」の水曜レギュラーも務める。株式会社arca代表。

田代伶奈(写真左)
上智大学大学院哲学研究科博士前期課程修了。学校や企業、社会人の学びの場などで哲学対話を行う。監修に『考える力を鍛える思考実験』。株式会社FRAGEN代表。坂本龍一・Gotch主催のムーブメントD2021運営。

個人の努力に限界があったから、政治の大切さに気づけた


——なぜ投票を呼びかけるプロジェクトGO VOTE JAPAN (以下、GVJ)を立ち上げようと思ったのか。まずはおふたりが政治に関心をもったきっかけを教えてください。

辻愛沙子(以下、辻):私が投票率を上げる活動をやらねばと決心したのは、特定のトピックというよりは、「なんでこんなことになっているんだろう」と疑問に思うような一連の出来事への違和感があったからです。

新型コロナにまつわるあらゆる政治的な出来事や、議席のほとんどが男性に占められていること、市民が知ることができるはずの情報が不透明なことなど、私たちが仕事の場でやったら許されないようなことが、政治では当たり前になっている。

投票率が低いことで、政治が市民の声に耳を傾けないままでいられることも問題だし、一方でそれは市民の側があまりに政治をタブー視してしまっているがゆえなのではと思うんです。それでは声など届きようがない。だからこそ、投票という行為を通して、私たちは政治のことをちゃんとみていますよと意思表示することが重要なんじゃないかと思うようになりました。



田代伶奈(以下、田代):私は、もともと政治自体に強く関心を持っていたわけではなかったんです。選挙には行っていたけど、国会とか見たことなかったし無関心にも近かったかもしれない。祖母はフリーランスのアーティストで、母は非正規雇用のシングルマザー、私はバイトをしながら自分で学費を払って大学に行きました。大変でしたがずっとそうやって生活してきたから、頑張れば人生はなんとかなると信じていました。



:なるほど。

田代:そんな時に大学で哲学に出会って、平等とか格差とか自由とか、当たり前だと思いこんでいることを問い直して考えてもいいのだと知りました。働くようになって、これまでは個人の頑張りでなんとかしようとしてきたけれど、それだけでは社会は変わらないと思うようになりました。

たとえば、最近話題に上がるようになってきた「生理の貧困」ですが、振り返ると、自分の問題でもあったなと思ったんです。大学時代、生理用品を買うお金を捻出するのは結構大変で、優先順位を下げていたんですね。30歳を過ぎてから、ようやくあれが自分のことでもあったと気づけるようになりました。

その渦中にいると、なかなか自分が問題を抱えているとは気づけないんですよね。

田代:そうなんですよね声をあげて表で戦ってきた人がいて、自分も視野を広く持てるようになったのだと思います。

無数の点である社会問題を繋ぐ存在がGO VOTE JAPANであって欲しい


——そうした気づきを経て、GVJではどんなことを目指しますか。

:この一年くらいで社会もすごく変わってきていて、良くも悪くも政治と自分たちの生活が地続きであるということを感じられるようになりました。GVJが必要だと思ったきっかけとして大きかったのは、社会には無数の課題や問題は点在しているのに、それらが線でつながっていないことにありました。みんなが自分の生活にいっぱいいっぱいで、各活動が連帯するフレームがないから、それぞれの課題を冷静に見つめて、線でつなげられることができていない。

田代:そうですね。

:選挙って、よく「未来のため」と言われるし、それはそうなんだけど、同時に、これまでどうだったのかを振り返るきっかけでもあると思っています。自分の生活とか、声をあげたいこととか、そういうものを整理して、その上で答えをどうするのかを考えるためにも選挙があるんじゃないかな。だから、いろんな立場の人たちが、それぞれの視点から感じている課題をどこかに集めて、選挙を通して、多様な問題意識にみんなで向き合えるといいなと思って、GVJを立ち上げました。



田代:政治や選挙について考えることのできるプラットフォームがもっと必要ですよね。GVJには、ふたつの目標があると思っています。ひとつ目は、短期的な目標で、今年の衆院選の投票率をあげること。そのために、企業やクリエイター、アーティストの方々などさまざまな人たちとアイデアを出し合いながら、一緒に盛り上げていきたいと思っています。

ふたつ目は、長期的な視点で、政治にコミットしやすい文化を日本社会に根付かせるということ。いまは、政治や選挙について話すという文化があまり根付いていない。一人ひとりの意見が尊重されながら、自然に政治に関わることができるようになるムーブメントをつくれたらいいなと思います。

社会問題に「正解」はないことを理解することがスタートライン


——選挙のたびに「投票率をあげよう」と叫ばれてきましたが、なかなか数字が改善されない現実があります。

:選挙や政治に対して、「わからない」というイメージがついてしまっていることが一つの原因としてあるんじゃないかと思っています。

田代:「政治について語ること」それ自体のハードルが高いですよね。社会問題や政治について語ると、“政治について語る人” “社会派”とカテゴライズされてしまったり、「ガチな人」というお堅いイメージがついちゃうというか。

:私の周りでも、選挙のたびに「誰に入れたらいいのかわからない」という話を聞きます。メディアも政策より政局の話ばかりするから、そういう疑問が出るのもわかるんですよね。でも、政治で大事なのは、誰にトップに立ってほしいかというwhoの部分じゃなくて、政治に何を叶えてほしいかというwhatの部分を持つことだと思います。

田代:その通りだと思います。日常の中で、身近な人たちと政治について話す機会がないという人もいる中、政治と自分たちの暮らしが地続きであることを実感するためにはどうしたらいいんだろうとよく考えます。



政治の「わからなさ」って、連続ドラマを途中から見始めたようなものなのかな、と思うことがあるんですよね。選挙を取り巻く状況とか、展開とか、登場人物がわからないから、急に「選挙に行こう」と言われても、どうしたらいいのかわからなくて、それならもういいや、って関わるのをやめてしまう。

田代:なるほど。

:それと、教育の中で「正解がある」と思わされてきたことも大きいのかなと思っています。テストでは◯か×かの正解を選べるように教育されるし、就職活動にしても何か唯一ある正解をみんなで競争して勝ち取っていく、みたいな風潮がある。

田代:教育で培われた思考の枠組みにはなかなか気づけないですよね。

:大人になってますます思うこととしては、社会に「正解」なんてなかなかなくて、もっとグレーゾーンのなかで判断し、選択していかなきゃいけないということです。政治に対しても、何か絶対の正解があると思っている人が、それを選べないから選挙に行かない選択をしてる人もいるのかもしれません。

田代:男性が大半を占める永田町の政治のあり方には、私たちを政治から遠ざける根本的な問題があると思うのですが、それ以上に思うのは、私たちみんな多忙すぎるから、政治について考えたり、周囲を振り返る時間がないということです。

働きすぎ余暇がなさすぎで、この社会の中には、じっくり考える機会があまりにも少ないと思います。機会が少ないだけでもなくて、考えることは時に苦しいことでもあるから、一日10時間も働いた日には、そんな余裕ないんですよね。疲れ切っているのに、政治や社会に関心を持てなんて無理だと思います。

:社会全体として政治へのコミットが少ないことや投票率が低いことと、私たちの生活に余裕がないことは、つながっていますよね。

田代:自分の生活にゆとりを持ち、今よりも豊かに暮らせる社会に変えていかなけければいけないと思います。その社会をつくるためにも政治の力が必要なんですよね。

一票の力が伝播して大きな力になっていく


——政治が大事だとわかっていても、大きな社会に対して自分が変えられるとは思えなかったり、自分は無関係だと感じてしまったりする人もいると思います。

:自分の1票で社会が変わるとは実感できないかもしれないけど、私は個人がまったくの無力だとは思いません。私自身、政治を専門的に学んできたわけでもない一市民ですが、自分が日々感じてきた違和感とかおかしいと思うことを、会社のメンバーや友人に少しずつはすようにしたら、周りと社会問題について自分ごととして話ができるようになってきた実感があります。

ひとりの声が周りに伝播して連鎖反応が起きることはあるので、ひとりの力は全然小さくない。誰であっても、言い続ければ変わるし、届けることができると信じています。そこに声の大小は関係ない。

田代:この前の東京都議会議員選挙でも、目黒ではたったの6票差で命運がわかれた候補者がいましたよね。だから、私は「1票なんかじゃ社会は変わらない」とは思えないです。

:個人だけでは無力だと思ってしまうことも理解できます。日本は相対的には豊かな国とはいえ、バブルが弾けてから閉塞感が続くこの社会で、自分には力があると思える人ってそう多くはないのかもしれないし、自分の投票した候補者や政党が選挙に負けてしまえば、「やっぱり自分の1票なんて無意味だ」と考えてしまうこともあるかもしれない。

田代:確かに、一回の選挙に大きく期待してしまうと、「なんだ、変わらないじゃん」と思ってしまいますね。

:でも、大事なのは日々の生活の中で変わっていくことや自分が感じることを大事にして社会や政治を見たり、周りの人と話していくことだと思うんです。1票の重みは現実としてあるからこそ、日常の中で自分の声が誰かに届く瞬間を体感できる場がたくさんあれば社会は変わるはずだから、「選挙で一点突破!」に徹するんじゃなくて、身近な政治の場をつくり上げていきたいです。


怒りは悪いものではなく社会を変える原動力


——身近な政治参加の場をつくるために考えていることはありますか。

田代:私たちは「選挙に行こう」とは言うものの、民主主義を成り立たせるための政治参加の方法が、選挙だけじゃないと思っています。選挙はある種、非日常的な行事で、その時だけ「投票に行け!政治に参加しろ!」と言われても、白けるのは当然のことだと思います。私も、日常で政治参加を感じられる瞬間はあまりありません。

:そうですね。

田代:日常的に接している地域やコミュニティでの、投票以外の政治参加の道があるといいと思います。「政治」という言葉も、もっと広い意味で使っていきたいですね。住民みんなでその地域のルールを決めるとか、社会問題についてみんなで議論するとか。「社会に関わっているんだ」「社会は自分たちで決められるんだ」という実感が持てて、そうやって人々が連帯していける社会が理想だと思っています。

:有権者と政治家の関係も、連帯とは真逆ですよね。ともすると、有権者が政治家に対して、「あなたに託します」となかなか思えない状況になってしまっている。

田代:政治家って「私たちの代表者」と思える人ばかりではないですよね。衆議院なんて9割男性ですし。私たちがどういう社会で生きたいのか?どういう政治家を求めているのか?そうした問いをみんなで模索する場をGVJでもつくりたいです。

:SNSのような、いろんな人が集まる場所で政治を語ると、思想の違う人や、より知識が豊富な人に間違いを指摘されたり、否定されてしまうことがある。その怖さに耐えきれなくて、不自由を選ぶことの楽さに慣れてしまう。でも、大事なのは、正解を提示することじゃなくて、選択肢を広げることだと思います。

ひとつの正解だけをみんなが追い求める社会ではなくて、それぞれの声が受け入れられる社会にするために民主主義がある。だから私は、もっと街中に私書箱があったり、何もわかっていなくても間違えてもいいから気軽に政治のことを話せる場所があるといいなと思っています。

田代:身の回りの小さなことに対して、自分の意見が受け止められると思える風土が大切ですよね。

:そうなんです。政治って、 “何か大きいものを政治家たちが決めていく”っていうイメージがあるし、様々な問題がつながっているからこそ、ひとつの事象に分けてみる見方がわからなくなってしまう。でも、そうやって政治を身近なものにできないから、政治を神格化したりタブー視してしまうのであって、もっと日常の出来事やパーソナルなことや、自分が抱く違和感や生きづらさの延長線上に政治があると気づくだけでも、見え方は変わってくると思います。



——なかなか政治に興味関心を持ちづらい人に対して、GVJとして伝えたいことはありますか。

田代:私が今、政治に関心を持っているのは、端的に言えば怒っているからだと思います。

:すごくわかります。私も同じだと思います。田代さんも私も、怒りの人ですね(笑)。

田代:政治の主役は、国会にいる政治家たちではありません。綺麗事ではなくて、本当に一人ひとりがこの社会の主人公であって、むしろそうでなければいけないと思います。GVJも、私はそのためにありたいと思います。怒りや疑問や要望を持つことは、カッコ悪いことではないし、素晴らしいことなんだと言っていきたいです。

:熱量高く何かに取り組むことは、決して恥ずかしいことではないと言い続けていくことが、まずはとても大事だと思います。そこに傷ついている人がいるのに、社会はそういうものだから、と諦めたり思考停止して、いつか誰かが変えてくれると自分の人生や思考を他者に明け渡してしまう、そういう選択をとりたくないんです。誰か1人に背負わせるのではなく、一人一人が自分の頭で考えて、それぞれが臆せず声をあげて社会に声を届けていく。そんな当たり前を守るために活動をし続けるのだと思います。選挙に一点集中という形で活動をするのではなく、選挙というきっかけから、日常で政治をいかに結びつけられるかを考えていきたいと思っています。

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